酒都西宮と新酒番船
更新日:2022年10月13日
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1 宮水・酒どころ西宮の水
室町時代の中頃、各地に銘酒が次々と誕生しました。西宮、兵庫の酒が「旨酒」として一条兼良(いちじょうかねら)の随筆集「尺素往来(せきそおうらい)」に書かれているように西宮は酒どころとして古くから知られていました。
現在は年間を通して生産されていますが、昭和30年半ばごろまで酒造りは12月から翌春4月までの寒冷な時期に造られ、西宮の冬の風物詩でした。
江戸時代、海岸よりの東西2丁南北5丁ほどの地域から湧き出る地下水が、酒造りに適していることに気づき、以来「宮水」と呼んでいます。このころから西宮では、さらに盛んにお酒が醸造されるようになりました。
2 昭和30年代の酒造り
毎年11月中ごろになると、丹波などから杜氏が蔵人たちを引き連れて、馴染みの蔵へやってきます。
出荷して空になった酒樽や一年間しまいこんでいた器具などを取り出して洗い始めます。どの酒屋からも「桶洗歌(おけあらいうた)」が聞こえてきて、街行く人も秋の深まったことを感じます。
11月下旬になると、酒屋は酒の主原料の米を買い付けます。
大きな蔵に米俵が次々と積み込まれ、酒造りが始まります。
3 江戸時代、酒屋の一大行事・新酒番船
江戸っ子は競って新酒を口にしたいという気風があったようです。酒の値段は酒質の良否よりも“最初に江戸に入った”新酒のほうがさい先がよいと高値がついたといいます。ここから「新酒番船」というレースにしたてあげられます。最も早く江戸に入港した酒は一年間特別に高い値で取引され、その栄冠をいただいた船は「惣一番船」として一年間優先的に荷役ができるという制度をつくりました。これが江戸っ子気質に受け、錦絵にも描かれるほど大人気の行事となりました。
このレースには大阪樽廻船問屋8軒、西宮樽廻船問屋6軒の各廻船問屋が一艘ずつ、合計14艘が参加し、大阪は安治川から、西宮は西宮浦から、その後文化2年からは西宮浦に勢ぞろいし、江戸まで一気に出帆していきました。
番船の方法は、
(1)まず期日が決まると西宮浜先辺りに舞台が設けられます。そして樽廻船は新酒を積んでその日までに沖に舳先(へさき)を並べて集合します。
(2)参加船に対して船名と船頭の名などを書き入れた切手を用意します。舞台の周辺では酒屋の号または酒銘、問屋名を記した旗やのぼり、吹貫きなど数十を立て並べ、場を盛り立てます。
4 錦絵にも描かれる「惣一番」
(3)ねじり鉢巻にふんどしをきつく締めた水主(かこ・船員)が勢揃いします。時が来て船主・行司も位置につきます。「切手」を手にする方法は時々でいろいろと変化したようですが、スタートの合図とともに、切手をくわえて砂浜を全力で走り、待ち構えていた伝馬船に飛び乗り、白波を蹴って艪をこぎ、本船への一番乗りを争います。
(4)本船で待ち受けていた船頭は切手を受け取ると、直ちにイカリを引き揚げ、帆を巻き上げ、春風をはらませて出発します。
(5)その日船主の家では前祝の宴を張ります。華やかな半てんを着込んで、100人くらいが列をなし、鉦(かね)などを打ち鳴らして、船名や船頭の名を唱えて「惣一番じゃ」と市中を練り歩きました。
(6)江戸の酒問屋では見張り番が出て船の到着を今か今かと待ち受けます。そして3、4日して品川沖に到着した船からは、直ちに伝馬船がおろされ川端の問屋まで最後の力走です。切手を差し出してゴールとなります。
(7)酒問屋・樽船引受問屋などが立会い、一番から三番までの船に番札を渡しました。
(8)一番で着いた船の水主たちは、赤い半てんを着、「惣一番」ののぼりを立て、太鼓をたたいて下り酒問屋のある新川・新堀界隈を踊りながら練りまわったといいます。この様子を描いた錦絵は三井文庫に所蔵されています。
海岸を埋めつくす人々は、屈強な水主が力いっぱい砂浜を走り、艪をこぎ、本船に乗り込むさまを息をつめて見守ります。風をはらませた10艘ほどの二千石船(およそ米俵5000俵分)が次々と海上のかなたへ走り去るのを見るのは清々しく、またわくわくしたことでしょう。
5 いまも続く酒都・西宮
毎年10月に行われる「酒蔵ルネサンス」では江戸での練り歩きの様子を再現し、太鼓や鉦のにぎやかなリズムに合わせてパレードをしています。
西宮市立郷土資料館には樽廻船の模型が展示されています。また、そのほかに船頭の祝半てん、新酒番船一番の杯など多くの資料を所蔵しています。
白鹿記念酒造博物館では、酒蔵を利用して近年まで使われていた酒造の道具などが展示されています。
もちろん、酒蔵通り近辺の各酒造会社では自慢のお酒やつまみなどを販売しています。
旧「なにわの海の時空館」には復元した千石船菱垣廻船「浪華丸」が原寸大で展示されていました。
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