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西宮湯川記念賞受賞者(第31回~)

更新日:2023年12月15日

ページ番号:66911828

所属・肩書は受賞当時のものです。

第31回(2016年)日高(ひだか) 義将(よしまさ) 氏 渡邉(わたなべ) 悠樹(はるき)

贈呈式年月日

平成28年(2016年)12月3日

受賞者

日高 義将 氏(理化学研究所仁科加速器研究センター 専任研究員/写真上)
 ※「高」は正しくは「はしごだか」(環境依存文字)
渡邉 悠樹 氏(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 講師/写真下)

日高氏

渡邉氏

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受賞研究

一般化された南部・ゴールドストーンの定理の確立

受賞理由

 2008年にノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士の重要な業績の一つに、南部・ゴールドストーンの定理と呼ばれる物理学の基本的な定理がある。これは、物理系の持つ対称性が外部からの擾乱なしに自発的に破れると、南部・ゴールドストーンボゾンと呼ばれる質量を持たない粒子が現れ、その破れた対称性の数と質量を持たない粒子の数が等しくなるという内容である。この定理は、相互作用の詳細によらず対称性の観点だけから物理現象を解明する道筋を与える強力な手段となっている。例えば湯川秀樹博士がその存在を予言したパイ中間子は質量がとても軽いが、その理由もこの定理から理解することができる。この南部・ゴールドストーンの定理は真空中では成り立つが、物質が存在する場合は一般には成り立たないことが知られていた。半世紀にわたり、定理を一般化する多くの試みがなされてきたが、破れた対称性の数と質量のない粒子の数の間に成り立つ普遍的な関係式を導くことはできていなかった。 
 日高氏と渡邉氏は、この永年の難問に対して同じ時期に独立に取り組み、全く異なる方法を用いて上記の関係式を導くことに成功し、一般化された南部・ゴールドストーンの定理を確立した。日高氏は「射影演算子法」を用いて、一方、渡邉氏は「有効ラグランジアン法」を用いて証明を行った。この成果は、対称性の自発的破れという重要な物理現象の学問的基礎を深めるだけでなく、物理学の広範な分野における低エネルギー現象を対称性の観点から理解する礎となるものであり、物理学全体に大きな波及効果を持つものとして高く評価される。

第32回(2017年)深谷(ふかや) 英則(ひでのり)

贈呈式年月日

平成29年(2017年)12月16日

受賞者

深谷 英則 氏(大阪大学大学院理学研究科 助教)

深谷氏

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受賞研究

カイラル対称性の自発的破れと質量の起源の研究

受賞理由

 素粒子物理学の標準模型では、物質を構成している陽子や中性子はクォークという素粒子3個から構成され、クォーク間の相互作用は量子色力学(QCD)で記述される。クォークはスピンという固有の回転を持ち、運動方向に対して右回りまたは左回りに回転している。もしクォークの質量が0だとすると、回転の向きは変化できない。この性質をカイラル対称性と呼ぶ。現実のクォークの質量は非常に小さく、クォーク3個の質量を足しても陽子や中性子の質量のわずか2%に過ぎない。残りの98%の質量は、南部陽一郎博士によって提唱された、カイラル対称性が相互作用の結果として破れる機構(カイラル対称性の自発的破れ)によって説明できると考えられている。この描像は、湯川秀樹博士が予言したパイ中間子の存在と性質を自然に説明するため、長年正しいと信じられてきたが、カイラル対称性の自発的破れをQCDの基礎方程式から直接示すことは極めて難しい問題であった。
 深谷氏と共同研究者は、格子ゲージ理論という数値計算手法を用い、カイラル対称性の自発的破れがQCDで起こることを世界で初めて説得力のある形で示した。そのような数値的証明は、高性能のスーパーコンピュータを用いても容易ではなかったが、深谷氏は、カイラル対称性を厳密に保つ数値計算手法と、軽いクォークを含んだ有限体積でのQCDダイナミクスに対する氏の深い洞察から得られた解析手法とを組み合わせることで、この難題を解決した。この成果は、格子ゲージ理論による研究の一つの到達点であるだけでなく、物質の質量の真の起源がQCDにおける相互作用の結果として理解できることを示した点で深い物理的意義を持っており、高く評価されるものである。

第33回(2018年) 小林 努(こばやし つとむ) 氏

贈呈式年月日

平成30年(2018年)12月8日

受賞者

小林 努 氏(立教大学理学部物理学科 准教授)

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受賞研究

最も一般的な単一場インフレーション宇宙論の構築

受賞理由

 宇宙初期に起こった空間の加速膨張であるインフレーションにより、宇宙の平坦性や一様性を説明すると同時に構造形成の初期条件を自然に説明するインフレーション宇宙論のパラダイムは、すでに観測的にほぼ実証されたと言える。しかしながら、インフレーションモデルの詳細に関しては未だ明らかでなく、様々なモデルの可能性が存在する。現在、宇宙背景放射の温度や偏光の分布、銀河の3次元的空間分布などの宇宙論的観測が精力的に進められており、インフレーションを起源とする重力波や、ゆらぎの高次相関などが今後観測されることで、より鮮明なインフレーションモデルの描像が得られることが待たれている。
 小林氏と共同研究者は、単一のスカラー場からなる場の方程式が時間の2階微分までで表される最も一般的な宇宙モデルを考察し、インフレーションが起こる条件を明らかにするとともに、密度揺らぎや重力波の3点相関などの観測可能量に対する一般公式を導出することに成功した。これらの一般公式により、これまで個別に議論されていた様々なインフレーションモデルを包含するようなモデル空間を連続的に取り扱うことが可能になった。さらに、上記の単一スカラー場モデルの枠組みは1974年にホルンデスキーによって発見されていたが、近年、見かけ上異なる形で再発見され、それらの間の等価性を示す証明を与えたのも小林氏らである。
 以上の業績は宇宙論的観測によってインフレーションモデルを絞り込む上での統一的な枠組みを与えるものとして高く評価されている。

第34回(2019年) 村瀬(むらせ) 孔大(こうた) 氏

贈呈式年月日

令和元年(2019年)12月7日

受賞者

村瀬 孔大 氏(ペンシルベニア州立大学物理学科 助教授)

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受賞研究

高エネルギーニュートリノを軸にしたマルチメッセンジャー観測に基づく宇宙粒子物理学の先駆的研究

受賞理由

 高エネルギー宇宙線は、宇宙空間を飛び交う高いエネルギーの粒子だが、起源(どこで作られるのか)と加速機構(どのように高エネルギーになるのか)は発見以来100年経った現在でも未解明のままで、物理学における大きな謎である。従来は、宇宙線と電磁波の観測結果から起源と加速機構が推測されていたが、2010年に完成した南極のIceCube実験で高エネルギーニュートリノが観測されたことで状況は一変した。宇宙線や電磁波にニュートリノも加えたマルチメッセンジャー観測が可能になり、その結果を総合的に用いて高エネルギー宇宙線の謎に迫る道が拓かれたからである。
 村瀬氏は、IceCubeの観測以前から高エネルギーニュートリノに注目し、それを軸に宇宙線と電磁波の観測情報を組み合わせて高エネルギー宇宙線の起源や加速機構に迫る先駆的な研究を行い、マルチメッセンジャー宇宙粒子物理学(astroparticle physics)と呼ぶべき理論研究を牽引してきた。その理論は、高エネルギー宇宙線の起源天体解明の土台を提供している。特に、ガンマ線背景放射とニュートリノの観測結果を組み合わせて、高エネルギーニュートリノの起源天体に対する必要条件を世界に先駆けて求めた。これはモデルの詳細に依存しない一般的な制限で、今後の観測戦略へも大きな影響を与えている。また、村瀬氏が提案した、活動銀河を含む銀河団などを起源天体とする「宇宙線貯蔵庫」タイプのモデルは、ニュートリノ、ガンマ線、高エネルギー宇宙線に対する観測結果を包括的に説明できる現段階では唯一の大統一モデルであり、世界的な評価も高い。その他にも、超新星爆発やガンマ線バーストなど高エネルギーニュートリノ源に関する研究成果の質と量で世界的に突出しており、宇宙粒子物理学の発展に多大な貢献をしている。
 
ファイルダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。第34回西宮湯川記念賞贈呈式リーフレット(PDF:7,222KB)

第35回(2020年) 塩崎(しおざき) (けん) 氏

贈呈式年月日

令和2年(2020年)12月5日

受賞者

塩崎 謙 氏(京都大学基礎物理学研究所 助教)

塩崎謙先生


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受賞研究

トポロジカル結晶絶縁体・超伝導体の分類理論

受賞理由

 導体、超伝導体、半導体、絶縁体といった物質の示す様々な伝導特性の理解はエレクトロニクス技術の基盤となってきたが、今世紀に入って、トポロジカル絶縁体やトポロジカル超伝導体の発見を通じて、電子の波動関数が持つトポロジー的な性質が物質の電気伝導特性に決定的な役割を果たす場合があることが認識されるようになった。このような新しい学理に基づき、新奇な特性を持つ物質を探索・設計することが、新たな物性物理学の大きな潮流となっている。トポロジカル絶縁体・超伝導体の初期の研究においては、系の持つ時間反転や粒子-空孔に関する対称性等に基づいた分類がなされていた。これらは理論上重要な成果ではあったが、実際の物質の電子構造はその結晶構造によって決定されるため、物質への応用に関しては不十分な面もあった。
 塩崎氏は、結晶構造の対称性によってあらわれる「トポロジカル結晶絶縁体・超伝導体」の系統的な分類理論を構築した。トポロジーに関する数学において重要なK理論を活用した塩崎氏の研究は、それまでトポロジカル結晶絶縁体・超伝導体に関して個別に得られた結果に統一的な視点を提供すると共に、多種の新しいトポロジカル結晶絶縁体・超伝導体の可能性を示すものであった。特に、鏡映と平行移動を同時に行なう映進操作に対する不変性があるとき、メビウスの輪に類似したねじれたバンド構造を持つ表面状態を伴う新種のトポロジカル結晶絶縁体の存在を予言し、これは後に実験的に確認された。
 塩崎氏の研究は、現在トポロジカル物質が物性物理学の中心的課題として世界中で盛んに研究されている状況の中で、現実の物質への応用に極めて重要な役割を果たす結晶対称性の下での系統的な分類理論を構築したもので、西宮湯川記念賞に相応しい成果である。


ファイルダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。第35回西宮湯川記念賞贈呈式リーフレット(PDF:6,255KB)

第36回(2021年) 吉田(よしだ) (べに) 氏

贈呈式年月日

令和3年(2021年)12月4日

受賞者

吉田 紅 氏(ペリメーター理論物理学研究所 教員)

吉田紅先生顔写真
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受賞研究

「量子情報理論に基づくホログラフィック 双対(そうつい)模型の構成」

受賞理由

 自然界を支配する4つの力、すなわち重力、電磁気力、強い力、弱い力のうち、後三者は場の量子論によってよく記述されているが、宇宙 開闢(かいびゃく)時やブラックホールの深奥で重要となる重力の量子的効果を満足に記述する量子重力理論はいまだ得られていない。この問題へのアプローチとして、近年、重力を含まない通常の場の量子論が量子重力理論の立体写真(ホログラム写真)として見なせるという、驚くべき仮説が注目を浴びており、ホログラフィック 双対(そうつい)と呼ばれている。しかし、この仮説は、膨大な数の状況証拠はあるものの、その機構はまだ部分的にしか理解されていない。一方、近年の技術の進歩は、量子力学の基礎原理を用いた量子計算機の実現を可能にしつつあり、量子情報理論と呼ばれるあらたな情報理論が急速に進展している。
 吉田氏は2015年に共同研究者と共に行った研究で、ホログラフィック 双対(そうつい)を記述する非常に巧妙な量子情報理論模型を提案した。これは、量子計算機における誤り訂正の仕組みを応用して構成された数理模型で、2013年西宮湯川記念賞の受賞研究である (りゅう)・高柳公式など、いくつかの重要な性質を正しく再現する。この研究は発表当初から注目を集め、今日に至るまで非常に多くの関連研究を誘発し続けている。
 以上のように、吉田氏の研究成果は、ホログラフィック 双対(そうつい)の全容解明に量子情報理論の観点から手がかりをあたえるものとして高く評価される。吉田氏はこの他にも量子情報理論の技法を駆使し、量子重力理論、ブラックホールの物理、量子カオス理論、トポロジカル相などに関する優れた研究を数多く行っており、西宮湯川記念賞に相応しい研究者である。


ファイルダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。第36回西宮湯川記念賞リーフレット(PDF:3,049KB)

第37回(2022年) 山本(やまもと) 直希(なおき) 氏

贈呈式年月日

令和4年(2022年)12月3日

受賞者

山本 直希 氏(慶應義塾大学理工学部物理学科 准教授)

山本直希先生顔写真

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受賞研究

「カイラル運動論の構築と応用」

受賞理由

 電子やクォーク、ニュートリノなどのフェルミ粒子は、「自転」に対応する内部自由度であるスピンを持つ。フェルミ粒子は、質量がゼロのとき、粒子の運動とスピンの向きが同じである右巻き成分と、反対である左巻き成分に分離することができ、これらの自由度はカイラリティと呼ばれる。古典的には右巻きと左巻きが入れ替わることはなく、カイラリティは保存される。しかし、量子効果によって右巻きと左巻きの粒子数が変化する「カイラル量子異常」の存在が、場の量子論で理論的に知られていた。近年、原子核や物性の量子多体系でカイラル量子異常を起源とする粒子や電荷の流れを実験的に測定し、場の量子論の予言を実験的に直接検証する試みが精力的に行われている。このような現象は主に非平衡状態で現れるが、量子多体系の非平衡ダイナミクスを理論的に扱うことは難しい問題である。特に非自明なカイラリティを持つ物理系の実時間発展を理解することは未開拓な課題として残されていた。
 山本氏は共同研究者とともに、カイラル量子異常を持つ場の量子論に基づき、ベリー曲率という幾何学的な特徴量を含む運動論的方程式を導出した。今日では、この方程式を基礎とする枠組みは「カイラル運動論」と呼ばれ、カイラル量子異常に限らず、トポロジー的な輸送現象を解析する普遍的な基礎理論としての地位を確固たるものにしている。
 山本氏はその後も、カイラルプラズマ不安定性の発見、カイラルアルヴェン波やカイラル衝撃波の定式化、重力崩壊型超新星爆発の新しいメカニズムの提唱など、カイラル運動論の応用やカイラル物質の性質について先駆的研究を展開している。カイラル運動論の構築および一連の応用研究はカイラル物質研究の端緒を開いたものとして高く評価されており、西宮湯川記念賞に相応しい。

ファイルダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。第37回西宮湯川記念賞リーフレット(PDF:3,020KB)

第38回(2023年) 仏坂(ほとけざか) 健太(けんた) 氏

贈呈式年月日

令和5年(2023年)12月2日

受賞者

仏坂 健太 氏(東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センター 准教授)

R05受賞者顔写真

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受賞研究

「中性子星合体に伴う電磁波対応天体の理論的研究」

受賞理由

 2015年にブラックホール連星合体からの重力波が検出されたことにより、電磁波・ニュートリノ・宇宙線に次いで人類は宇宙を観測する第四のチャンネルを獲得した。その後2017年に観測された二つの中性子星の合体による重力波イベントGW170817では、重力波の到来方向の範囲内に電磁波対応天体を伴うことが発見され、重力波とともに電波、可視光・赤外線、エックス線、ガンマ線とあらゆる波長域の電磁波で同時観測・追観測がなされた。この解析には数千人を超える世界中の理論・観測研究者が参画し、さまざまな波長や手段で同時観測することによって天体現象の正体を明らかにしようというマルチメッセンジャー宇宙物理学の 嚆矢(こうし)となった。
 仏坂健太氏は、すでにこの世界的大イベントの数年前より連星中性子星合体に伴う電磁波対応天体の理論研究に取り組み、さまざまな予言を与えており、それがGW170817によって見事に検証された。仏坂氏は共同研究者と共に、最初に、中性子星合体の際に、太陽質量の0.1-1%程度の質量がほぼ等方的に放出されることを数値相対論によって示し、電磁波放射を理論計算するための基盤を与えた。次に、キロノバ(放出物質の発光現象)の可視光・赤外線での光度曲線の予言、放射性r過程元素によるキロノバの加熱の理論構築、電波領域での残光現象の予言などを行った。これらの研究は、GW170817の電磁波対応天体の発見への道筋を示し、連星合体に伴いキロノバやガンマ線バーストがどのように起きたのかを解釈する上で重要な役割を果たした。また、仏坂氏らは、GW170817の重力波データに加えて、電磁波データを用いてジェットの向きを制限することで、ハッブル定数を決定できることを示した。これら一連の研究は、重力波宇宙物理学の歴史に残る画期的なものであり、西宮湯川記念賞にふさわしい業績である。

ファイルダウンロードのリンク 新規ウインドウで開きます。第38回西宮湯川記念賞リーフレット(PDF:3,083KB)

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