西宮市大谷記念美術館 開館50周年記念 特別展「Back to 1972 50年前の現代美術へ」
更新日:2022年11月30日
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2022年11月に開館50周年を迎えた西宮市大谷記念美術館では、10月8日(土曜日)から12月11日(日曜日)の会期で特別展「Back to 1972 50年前の現代美術へ」が開催されています。館が出来た1972年の社会情勢や美術界に焦点を当て、当時の現代美術を振り返る展覧会です。
70年代初頭の日本といえば、学生運動の激化や大阪万博の盛況を受けた、まさに激動の時代でした。また、日本各地で美術館が開館し、美術への関心が高まった時期でもあります。
美術への欲求が高まる一方で、現代美術側では「美術とは何か」という根本的な問いがなされた時期でもあるそうです。テーマや技法・素材など、時代を反映したさまざまな試みがなされました。
筆者は今回、西宮市大谷記念美術館学芸員の内村さんに展示を案内していただきました。本記事では、内村さんの解説や筆者の感想をもとに、本展覧会の魅力をご紹介していきます。
タイトルは映画「バックトゥザフューチャー」を意識したもの
学芸員の内村さん
第0章〈「1972年」という時代〉
本展は1972年の現代美術を5つのテーマで紹介しています。ひとつ目のテーマは〈「1972年」という時代〉。1972年は、札幌冬季オリンピックの開催や沖縄の本土復帰、日中国交正常化とそれに伴うパンダの初来日などがあった年です。
第0章の導入。手前は筆者。
明るい話題も多かった一方で、あさま山荘事件や公害問題の深刻化など、ネガティブな問題を抱えた年でもありました。
現代美術作品には、制作された時代の社会情勢や問題の影響が色濃く反映されます。第0章となるこちらには、1972年の光と影、それぞれを反映した作品が並びます。
カラー写真やコピー機が一般に普及したのもこの頃。テクノロジーの発展は、美術制作にも大きな影響を与えたようで、美術家たちが手掛けたカラフルな商用ポスターなどは、今もなお色褪せない魅力がありました。
第1章〈「1972京都ビエンナーレ」と関西のアートシーン〉
「京都ビエンナーレ」は、京都市美術館で開催されていた現代美術展で、その第一回が開催されたのが1972年でした。
こちらには、第一回京都ビエンナーレに出品された作品の一部やその関連資料が並びます。
同展の出品作家は、有名な作家から無名の学生まで幅広かったといい、意欲的な作品が数多く出品されたことが当時話題になったそう。
奥田善巳《ロープたち》西宮市大谷美術館蔵
丁寧な解説をくださる学芸員の内村さん(手前)
展示されている作品からは、明確なモチーフ・主題のようなものは感じられず、どこか観念的な印象を受けます。先進気鋭の作家たちによる「新しい美術」の模索、そのエネルギーを静かに、しかし強烈に感じました。
(左)植松奎二《空間関係構造態―樹、人、ロープ1》 (右)同《空間関係構造態―樹、人、ロープ2》(どちらも作家蔵)
※「1」「2」は本来ローマ字表記
「1972年 京都ビエンナーレ」会場写真(京都市美術館提供)
第2章〈具体美術協会の変遷〉
具体美術協会(以下、具体)は、画家・吉原治良(よしはら じろう)を中心として、1954年に芦屋市で結成されました。具体には関西の若手前衛画家が集い、なかには西宮在住の方もいたのだとか。
そんな具体で代表をつとめていた吉原は、1972年2月10日に急逝、具体は同年3月31日に解散してしまいました。第2章のこちらでは、吉原をはじめとした具体会員の作品や貴重な関連資料が並び、これまで詳しく語られてこなかった具体の最後の様子を窺い知れます。
具体最後の動向が分かる資料群
村上三郎《第25回芦屋市展ポスター》(個人蔵)
「誰もやらないことをやれ」をスローガンにしていた吉原。その影響もあるのか、展示室に並ぶ会員たちの作品は、モーター仕掛けのものや、当時普及し始めたばかりのシルクスクリーンを用いたものなど、技法・素材共に異彩を放っていました。
松田豊《SRU-SRU-L》(和歌山県立近代美術館蔵)
今井祝雄《10時5分》(作家蔵)
第3章〈現代美術の点景〉
ここでは先に紹介した団体などに属さない作家たちを取り上げています。各地の展示室や画廊で開催された現代美術の展示会、そこに出品されていた作品たちを並べ、当時のアートシーンに迫ります。
ここでは筆者が気になったものを2つほど取り上げます。
福岡道雄《蛾2》(国立国際美術館蔵)
プラスチック樹脂製の巨大な蛾で、この企画展チラシにも載っている作品。白壁に架けられた2匹の黒々とした蛾は、立体的でどこか神秘的な印象を受けます。
内村さんのお話によると、もともとは大阪にあった信濃橋画廊の個展で展示されていたもので、黒壁に浮き上がる蛾は不気味な魅力に溢れていたのだとか。展示環境で作品の雰囲気も変わる、美術品のおもしろさと展示側の難しさを感じました。
三木富雄《EAR》(国立国際美術館蔵)
その名の通り巨大な「耳」。三木はある時期から人間の耳をモチーフにした立体作品を作り続けていた作家で、この《EAR》もその作品群のひとつ。巨大な耳は不思議なリアリティーに溢れていて、不気味ながらもどこかユーモラス。
また、現代美術の記録写真を撮影し続けた安齊重男が1972年に撮影した写真も展示されています。彼の写真は、当時のアートシーンを取り巻く環境や現場の臨場感を伝える貴重なものです。
第4章〈版画の躍進〉
1950年代以降、世界的に版画への関心が高まるなかで、日本の版画は国際的な評価を得ていたといいます。国内でも徐々に版画への関心が高まり、なかでもさまざまな技法・道具が編み出された1970年代から80年代にかけては、「版画の黄金時代」と呼ばれました。
印刷技術としてすでに実用化されていたシルクスクリーンや写真製版が、版画の技法として応用・確立されたのもちょうどこの頃です。これまで紙にしか写せなかった版画は、その媒体を布や石などに広げました。
下谷千尋《PRINTED ROCK(A)》(京都市美術館蔵)
同時開催「大谷竹次郎とコレクション」展
1階の常設展示室では、小企画展「大谷竹次郎とコレクション」も開催されています。大谷記念美術館は、実業家・故大谷竹次郎氏により、美術作品と土地建物が西宮市へ寄贈されたことが開館のきっかけ。
この小企画展では、大谷氏の当初のコレクションである近代洋画や日本画の数々を展示しています。
小磯良平《大谷竹次郎像》(西宮市大谷記念美術館蔵)
現代美術作品とはまた違った魅力があります
展示を観たあとはカフェでゆったり
ボリュームのある展示を見たあとは、館1階にあるカフェ「交流サロン FIELD」でゆったりと過ごすのはいかがでしょう?
こちらは阪神西宮駅にある「COFFEE HOUSE FIELD」さんが手掛けており、美術館の綺麗な庭園を眺めながら、美味しいコーヒーやスイーツをいただけます。
水と紅葉のコントラストが綺麗!
今期のイチオシは「アートカプチーノ」。お好きな写真やイラストをカプチーノにプリントしてもらえます!
画像はQRコードからアップロード
特別感のある企画展ロゴ入りカプチーノ
美味しいカプチーノを飲みながら展示の余韻に浸るのも素敵
なお、カフェの営業時間は、展覧会開催中の11時から16時(ラストオーダー15時45分)までとなっています。
さまざまな特典が嬉しい「おかげさまで50周年」企画
「Back to 1972 50年前の現代美術へ」の会期中は、「おかげさまで50周年」企画を行っていて、一部の来館者にはちょっとした“特典”があります。
まず、毎日先着30名に、同展オリジナルのドリップバックコーヒー「Back to 1972 Blend」がプレゼントされます。
先ほどご紹介した「COFFEE HOUSE FIELD」協力のもとで完成したというこちらのコーヒーは、豊かな香りとさわやかな酸味で味のバランスが良好。とても飲みやすいコーヒーです。気になる方は早めの来館がおすすめ!また、1972年生まれの方は、なんと入館無料 (要証明書提示)!美術館と同い年の方に向けた粋な計らいです。
「Back to 1972 50年前の現代美術へ」は12月11日まで開催中!
50年前の現代美術の世界を味わえる本展。展示作品を通して、西宮市大谷記念美術館が誕生した当時の空気感や美術家たちの想いを確かに感じました。
鑑賞者の感性に委ねられる部分も多い現代美術。「作品の意味がよく分からない」というのもある意味では当然だと思います。深く考えずに作品のデザインや色使いを楽しむもよし、解説を読みながら作品のテーマについて熟考するもよし、さまざまな鑑賞スタイルがあっていいのです。
普段美術館に馴染みのない方でも、この機会に西宮市大谷記念美術館に足を運んでみてはいかがでしょう?鑑賞後のカフェタイムも併せて、優雅なひとときがあなたを待っていますよ。
開催概要
会期
2022年10月8日(土曜日)から12月11日(日曜日)
休館日
水曜日
開館時間
10時から17時(入館は16時30分まで)
入館料
一般1,200(1,000)円 高大生600(400)円 小中生400(200)円
※カッコ内は前売り券の値段。
*1972年生まれの方は入館無料(要証明書呈示)
*西宮市在住の65歳以上の方は500円(要証明書呈示)
*西宮市在住の一般の方は1,000円(要証明書呈示)
お問い合わせ
西宮市大谷記念美術館(西宮市中浜町4番38号)
Tel:0798-33-0164 Fax:0798-33-1699
西宮市大谷記念美術館ホームページ(外部サイト)
この記事は、西宮の人と人を繋ぐWebメディア「ニシマグ」にご協力いただき作成しています。
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